冬至りなば君遠からじ
初詣
 冬休み、僕はひどい風邪をひいて寝込んでいた。

 何も覚えてはいないんだけど、どうも寒いところに長時間いて体を冷やしてしまったらしい。

 熱がなかなか下がらなくて、起き上がることもできなかった。

 何よりも頭痛がひどかった。

 頭に何本もくぎを打たれるような痛みが周期的に襲ってきて、目の奥から波のように痛みが広がっていく。

 何も考えることができずに、ただ僕は布団の中で丸くなって頭をおさえていた。

 先に熱が下がっても頭痛は続いていて、体がだるくて何もする気力がわいてこなかった。

 凛からはお見舞いのメッセージが入っていたけど、正直に返すと心配させてしまうし、返信内容を考える余裕もなかったから放置していた。

 結局『治ったよ』と送信できたのは大晦日だった。

 家族は居間で年末の歌番組を見ていた。

 僕は人に会いたくなかったから部屋にこもっていた。

 大掃除もしなかったな。

 僕は冬休みの課題をやろうとノートを広げた。

 なぜかノートには枯れ葉が挟まっていた。

 紅葉とか綺麗なものではなくて、端が欠けて虫食いのただのゴミだった。

 どこで紛れ込んだんだろう。

 僕はノートをパタパタとはたいてゴミ箱に捨てた。

 スマホが震えた。

『よかったね、初詣行ける?』

『いいよ』

『じゃ、明日ね』

 翌日の昼過ぎに僕らは若松神社の鳥居前で待ち合わせをした。

 歩行者用踏切を渡って、神社裏口の階段を上がった。

 最近、ここに何度も来ていたような気がしたけど、僕はそんなに信心深い人間じゃないよな。

 きっと小学生くらいの時の記憶と間違えているんだろう。

 昔はよく高志や凛とここで遊んだからな。

 約束の時間だったけど、まだ二人は来ていなかった。

 若松神社は初詣客でにぎわっていて、社殿の前には参拝を待つ行列ができていた。

 境内の隅では子供達がブランコを揺らして遊んでいる。

 国道の方から高志と凛が並んでやってきた。

 二人はおそろいの白いマフラーをしている。

「おう、朋樹、大丈夫か」

「うん、明けましておめでとう」

「朋樹、あけおめ。心配したよ」

 凛は着物ではなく、普通の服装だ。

「あたしの振り袖姿見たかった?」

 僕が首を傾げると凛が高志を見上げる。

「興味ないって」

 高志も返事に困っている。

「二人ともおそろいのマフラーなんだね」

「すごいでしょ。手編みだよ」

 え、凛の?

「編み物なんてできるんだね」

 まずいことを言ったと思ったけど、凛は機嫌を損ねなかった。

「うん、今回はね、気合い入れて頑張ったよ」

「クリスマス・プレゼント?」

 高志が照れる。

「おう、いいだろ」

「大変だっただろ」

 僕が聞くと凛が笑った。

「うん、もうね、期末試験とかそっちのけで内緒で編んでたの」

 そっちのけるなよ。

 そういえば、前はなんか変な柄のマフラーしてたんじゃなかったっけ。

 すごくセンス悪いやつ。

 どんなのだったか思い出せないけど。

 聞くと怒られるから黙っていた。

 正月早々機嫌を損ねたくない。

「ほら、高志、お参り並ぼうよ」

 凛にマフラーを引っ張られて高志が「飼い犬じゃねえぞ」と苦笑しながらついていく。

 僕も一礼してから鳥居をくぐった。

「もう凛から逃げられないね」

「逃げようとしたら首を絞められちまうぜ」

 僕と高志の間に凛が割って入る。

「あら、あたし達の絆に嫉妬してるの」

「絆っていうより、縛り首じゃないの」

 凛は怒らない。

 むしろ照れ笑いを浮かべて高志の顔をのぞき込んでいる。

「コイツ、やっぱりあたしたちのこと嫉妬してるんだって」

 まあいいや。

 そういうことにしておこう。
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