God bless you!~第10話「夏休みと、その失恋」
右川の家に到着した時には、2時に近い。
もう部活は無理。確実に無理。
かなり古い一戸建て。小さくても庭がある。十分だろう。
ウチの事を思えば、羨ましい限りだ。庭なんか無いし、部屋もうるさい弟と一緒。右川なんか外でも平気だろう。犬と一緒で。
見覚えのある軽トラックがあった。ここだ。間違いない。
その時、横の家あたりで、犬がすごい勢いで吠えた。
びっくりしていると……右川家から、和服を着た女性が出てくる。
右川の母親と確信した。
……小さい!顔もどことなく似ている。何故か鮮やかな和服を着こなし、びっちりと化粧しているのだ。そこまでハイクラスな家だったか?
右川からも家からも想像がつかない。
「どちら?」と丁寧に訊かれて、「右川さんに……先生からの頼まれ事で来ました」と言う。友人、と言うと逆に怪しまれると思った。
中に通されると玄関には、洋服の箱やら、お菓子の箱、無数の袋で埋もれている。上がるように言われて、だだっぴろい居間に通された。
ドアの向こうに部屋がある。障子の向こうも、色々あるだろう。一体、何人で住んでいるのか。広いにも程がある。
目の前の居間では、そこにも、たくさんの箱やら紙袋が開けられて……。
「散らかって、ごめんなさいね。結婚式で。今帰ってきた所なのよ」
迂闊だった。そういう事だったか。
「山下さんですか」と聞くと、「あら、ご存知?」と、そこから共通の話題で母親と話が弾んだ。
厳かな式だったらしい。右川は出なかったと聞いた。
麦茶を出され、「この辺、気に入ったら、何でも食べて」と箱の中のお菓子を勧められた。
父親はまだ帰ってない。結婚式の後なら、お酒も入っているかも。
「あの、もう失礼します」
俺はファイルを置いた。
外でまた犬が騒がしく鳴く。すると、見慣れない学生服を着た女子が、ただいまと言いながら入ってくる。妹がいるとか言ってたからそれだろう。
右川とは、あんまり似てないような。右川よりも、どちらかと言うと、大人びた顔つきの妹である。
俺を見て、ちょっと驚くと、
「誰?お兄ちゃんの?」
「あ、右川の友人で」(うっかり友人と……ここで出たら意味がない。)
「は?うちみんな右川なんですけど!」と、妹らしきは逆ギレ。
母親に、これ!と怒られて1度は黙る。
いきなりのケンカ腰。バトル体質は妹にまで。
俺はずっと睨まれている。目つきが怖い。
「まさか彼氏とかですか」
違うよ!と即座に否定して、ファイルを置きなおした。
これ。これ。無言で示す。
「わざわざ届け物に来てくださって」と、そこは母親が代弁してくれた。
妹の怒りはまだ収まらない。
どうやらそれは俺ではなく、右川に向けたもので。
「お姉ちゃんさ、ちょっと振られたぐらいで式にも出ないって、頭おかしいんじゃないの!」
反抗期。こじらせた中2病。高校受験のイライラ。超機嫌悪い。
本当にもうこれでと、帰ろうとすると、そこへ、バリバリと音をたてて、誰かが帰ってきた。
いつかの、親父。
いつかと違って、相当酔っ払っている親父。
そして、その横には恐らく右川の兄貴。東大の……。
初めて見た。
こっちのが右川に似てる。間違いなく、きょうだいだ。
チビではなかった。男子として、普通に背丈はある。
見ると、父親は兄貴の肩に担がれてはいるものの、その担いている兄貴もベロベロ、「「ビッグウェイブだぁぁぁー」」と、玄関で2人仲良く転がって……妹と母親だけじゃどうにもならず、成り行き上、俺も手を貸した。
2人とも、顔が真っ赤。酒の匂いで、ぷんぷん。
父親はうつろな目でジッと俺を見て、
「あれ?ヒロちゃん、ついて来ちゃったの?」と言った。
誰かと間違えている。
改めて言っておくが、俺は〝ヨウジ〟であり〝ヒロシ〟ではない。
もう行こう!と玄関を出ると、タクシーのおじさんが居て、「680円ねー」と、俺に向かって手を出した。同時に引き出物の数々を強引に手渡される。
家族は2匹にかかりっきりで金どころじゃない。680円。払おうと思えば払える金額だ。……持ってたよ。払ったよ。自分にムカつく。
やれやれと荷物を玄関に置いた。
そこを親父にまた見つかり、「ヒロちゃん、上がっておいでー!」と、強引に引っ張られ……右川家は、怒涛の2次会に突入した。
右川の受験が……と話せるような雰囲気など最初から無い。
兄貴に「まあいいから飲め!」とビールを出され、すかさず父親が、「ヒロちゃんはまだ飲めないよなー」と、俺の頭を撫でる。
親戚か近所の子供と勘違いされている。
妹は2階に上がったまま降りてこない。
母親は、親父に言われるがまま、つまみをどんどん出す。
そうめんが美味い。俺はそれをひたすら食った。(ビール?飲まねぇよ。)
ひと心地ついたと見えて、「受験生なんで、もう帰ります」
だが、絶対の印籠が、ここでは通用しなかった。
「だーかーらー♪後で車で送っていくからぁぁ~♪」と兄貴と思しき人は歌ったが、そんな酔っ払っててありえない話だろ。本当にこの人、東大受かったのか。うちの母親に見せたい。俺の決意の果てには、東大フラグまでもが立ち上がりそうな予感がする。
右川の兄貴。
悪名高い先輩。
見た目、普通。肌は日焼けしていた。
北海道の大学で畑やってるとか、右川が言ってた記憶がある。礼服なんか着てると、まるで普通のサラリーマンにしか見えない。永田さんの話なんかしたら、さらに食い付いて取り込まれそうなので黙っておこう。
右川家は、そのまま晩御飯に突入した。
今までは何だったのか。
唐揚げ。マカロニサラダ。「頂き物よ」と、魚の煮付け。
てゆうか、いつまで食うのか。
「あらぁ、これ今日までだわ」
さらに……ロールケーキ!?
もう部活は無理。確実に無理。
かなり古い一戸建て。小さくても庭がある。十分だろう。
ウチの事を思えば、羨ましい限りだ。庭なんか無いし、部屋もうるさい弟と一緒。右川なんか外でも平気だろう。犬と一緒で。
見覚えのある軽トラックがあった。ここだ。間違いない。
その時、横の家あたりで、犬がすごい勢いで吠えた。
びっくりしていると……右川家から、和服を着た女性が出てくる。
右川の母親と確信した。
……小さい!顔もどことなく似ている。何故か鮮やかな和服を着こなし、びっちりと化粧しているのだ。そこまでハイクラスな家だったか?
右川からも家からも想像がつかない。
「どちら?」と丁寧に訊かれて、「右川さんに……先生からの頼まれ事で来ました」と言う。友人、と言うと逆に怪しまれると思った。
中に通されると玄関には、洋服の箱やら、お菓子の箱、無数の袋で埋もれている。上がるように言われて、だだっぴろい居間に通された。
ドアの向こうに部屋がある。障子の向こうも、色々あるだろう。一体、何人で住んでいるのか。広いにも程がある。
目の前の居間では、そこにも、たくさんの箱やら紙袋が開けられて……。
「散らかって、ごめんなさいね。結婚式で。今帰ってきた所なのよ」
迂闊だった。そういう事だったか。
「山下さんですか」と聞くと、「あら、ご存知?」と、そこから共通の話題で母親と話が弾んだ。
厳かな式だったらしい。右川は出なかったと聞いた。
麦茶を出され、「この辺、気に入ったら、何でも食べて」と箱の中のお菓子を勧められた。
父親はまだ帰ってない。結婚式の後なら、お酒も入っているかも。
「あの、もう失礼します」
俺はファイルを置いた。
外でまた犬が騒がしく鳴く。すると、見慣れない学生服を着た女子が、ただいまと言いながら入ってくる。妹がいるとか言ってたからそれだろう。
右川とは、あんまり似てないような。右川よりも、どちらかと言うと、大人びた顔つきの妹である。
俺を見て、ちょっと驚くと、
「誰?お兄ちゃんの?」
「あ、右川の友人で」(うっかり友人と……ここで出たら意味がない。)
「は?うちみんな右川なんですけど!」と、妹らしきは逆ギレ。
母親に、これ!と怒られて1度は黙る。
いきなりのケンカ腰。バトル体質は妹にまで。
俺はずっと睨まれている。目つきが怖い。
「まさか彼氏とかですか」
違うよ!と即座に否定して、ファイルを置きなおした。
これ。これ。無言で示す。
「わざわざ届け物に来てくださって」と、そこは母親が代弁してくれた。
妹の怒りはまだ収まらない。
どうやらそれは俺ではなく、右川に向けたもので。
「お姉ちゃんさ、ちょっと振られたぐらいで式にも出ないって、頭おかしいんじゃないの!」
反抗期。こじらせた中2病。高校受験のイライラ。超機嫌悪い。
本当にもうこれでと、帰ろうとすると、そこへ、バリバリと音をたてて、誰かが帰ってきた。
いつかの、親父。
いつかと違って、相当酔っ払っている親父。
そして、その横には恐らく右川の兄貴。東大の……。
初めて見た。
こっちのが右川に似てる。間違いなく、きょうだいだ。
チビではなかった。男子として、普通に背丈はある。
見ると、父親は兄貴の肩に担がれてはいるものの、その担いている兄貴もベロベロ、「「ビッグウェイブだぁぁぁー」」と、玄関で2人仲良く転がって……妹と母親だけじゃどうにもならず、成り行き上、俺も手を貸した。
2人とも、顔が真っ赤。酒の匂いで、ぷんぷん。
父親はうつろな目でジッと俺を見て、
「あれ?ヒロちゃん、ついて来ちゃったの?」と言った。
誰かと間違えている。
改めて言っておくが、俺は〝ヨウジ〟であり〝ヒロシ〟ではない。
もう行こう!と玄関を出ると、タクシーのおじさんが居て、「680円ねー」と、俺に向かって手を出した。同時に引き出物の数々を強引に手渡される。
家族は2匹にかかりっきりで金どころじゃない。680円。払おうと思えば払える金額だ。……持ってたよ。払ったよ。自分にムカつく。
やれやれと荷物を玄関に置いた。
そこを親父にまた見つかり、「ヒロちゃん、上がっておいでー!」と、強引に引っ張られ……右川家は、怒涛の2次会に突入した。
右川の受験が……と話せるような雰囲気など最初から無い。
兄貴に「まあいいから飲め!」とビールを出され、すかさず父親が、「ヒロちゃんはまだ飲めないよなー」と、俺の頭を撫でる。
親戚か近所の子供と勘違いされている。
妹は2階に上がったまま降りてこない。
母親は、親父に言われるがまま、つまみをどんどん出す。
そうめんが美味い。俺はそれをひたすら食った。(ビール?飲まねぇよ。)
ひと心地ついたと見えて、「受験生なんで、もう帰ります」
だが、絶対の印籠が、ここでは通用しなかった。
「だーかーらー♪後で車で送っていくからぁぁ~♪」と兄貴と思しき人は歌ったが、そんな酔っ払っててありえない話だろ。本当にこの人、東大受かったのか。うちの母親に見せたい。俺の決意の果てには、東大フラグまでもが立ち上がりそうな予感がする。
右川の兄貴。
悪名高い先輩。
見た目、普通。肌は日焼けしていた。
北海道の大学で畑やってるとか、右川が言ってた記憶がある。礼服なんか着てると、まるで普通のサラリーマンにしか見えない。永田さんの話なんかしたら、さらに食い付いて取り込まれそうなので黙っておこう。
右川家は、そのまま晩御飯に突入した。
今までは何だったのか。
唐揚げ。マカロニサラダ。「頂き物よ」と、魚の煮付け。
てゆうか、いつまで食うのか。
「あらぁ、これ今日までだわ」
さらに……ロールケーキ!?