春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(教えてくれて、ありがとう)」
「っ…」
お願い、伝わって。
音になってくれない声だけれど、どうか。
もう一度唇を動かせば、聡美に思い切り抱きしめられた。
「聞こえてるっ…聞こえてるよっ」
「(…よかった)」
「ちゃんと、聞こえたよ…っ」
涙に濡れた声で、私の名前を何度も呼んでくれている。
ただ、それだけで嬉しかった。嬉しくて仕方がなかったの。
程無くして顔を上げた聡美は、この上ない優しい微笑みを飾る。
「柚羽って、呼んでもいいかな?」
「(うん…!)」
唇を動かしながら頷けば、聡美は笑った。
好きだな、と。ただ漠然と、そう思えた。
私はそう簡単に人を信用する人間ではないけれど、彼女は心を砕くに値する人だと思う。
友達、と名を付けていい関係なのだと信じながら、教室へと戻る道を軽い足取りで歩く。