春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
声にならない言葉を伝えようと唇を開けば、それを制止するように何かが触れる。


「だめ」


場に似合わぬ甘い笑みを浮かべた諏訪くんが、自身の人差し指を私の唇に当てていた。

ゆっくりと頷けば、笑みを深めた諏訪くんは私に背を向け、前を向いた。


今度は、二人の姿がよく見えた。

紗羅さんは私の存在なんて気にも留めない様子で、ただ諏訪くんを睨んでいる。

総長の手を離し、気怠げそうに壁に凭れ、赤い唇を引き結びながら。


「ねぇ、死神さん。貴方が古織柚羽を庇うのは、あの事件の罪滅ぼし?」


あの事件?

罪滅ぼし?

それは私とどんな関係があるの?


一体何のことなのかと諏訪くんの制服の裾を軽く引っ張ったが、彼は応じてくれない。


「彼女は関係ないから」


「ならどうして今も庇ってるの?」


「君には関係ないでしょ」


「関係あるわ。古織柚羽への復讐の邪魔なんですもの」
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