春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

「てめえら―――」


「夏樹、行こうっ!」


再び殴らんばかりの勢いで立ち上がった夏樹さんを止めたのは、姫である紗羅さんだった。

夏樹さんの手を握ると、悔し気な顔で此方をキッと睨んでくる。


「絶対に…絶対に、許さないんだから」


彼女は去り際にそう言い捨てると、夏樹さんの手を引いて階段を駆け上がって行った。


やがて二人の姿が見えなくなった頃、駆けつけてくれたりとと聡美が振り向くなり怒鳴り声を上げる。


「諏訪!どうして呼んでくれなかったのよ!」


「馬鹿晏吏!!」


二人とも鬼のような形相だ。

それほどまでに心配してくれたのが見て取れる。

いきなり怒鳴られた諏訪くんは、何度か瞬きをすると嬉しそうに笑った。


「相変わらず心配性だなあ、璃叶は」


「笑ってる場合じゃないから。クソ総長と姫しかいなかったからいいものの、下っ端や幹部に囲まれたらどうするわけ?古織を庇って一人で立ち向かえるの?」


「その時はトンズラかなぁ。怪我したくないしー」
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