春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
トンズラって…逃げるということ?

元暴走族の人間が、怪我をしたくないという理由で?


怪我をしないためには戦わないのが一番だけれど、暴走族とか不良の人たちは暴力で解決しようとしているものだと思っていた。

当然、族を抜けた諏訪くんもそういう人だと思ってしまうわけで。


「……晏吏」


変わらず飄々としている諏訪くんに、りとは真面目な顔つきで詰め寄った。そして、諏訪くんの胸倉をグイっと掴む。

りとに胸倉を掴まれたというのに、諏訪くんは笑みを絶やさない。


「…俺たちは神苑を敵に回した。その意味を忘れてないよね?」


「忘れてないよ。全てが終わる日までに、僕がしなくちゃいけないことも、ね」


「…ならいいけど」


諏訪くんの返事に満足したのか、りとは手を離した。そうして聡美に持たせていた自分の鞄を受け取ると、昇降口がある方角へと足先を向ける。


「二人とも、日が暮れる前に帰るよ。送るから」
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