春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
時刻はもう16時過ぎ。りとの申し出は有難いが、私は帰る前に二人に聞きたいことがある。

明日ではなく、今ここで聞いておきたいのだ。

今すぐ、という我儘かもしれない。でも、私も関わっていることかもしれないなのに、知らないままは嫌だ。


神苑を敵に回した、と言ったりと。

“全てが終わる日まで”と言った諏訪くん。

そして、少し前に“何も知らないままでいて欲しい”と璃叶が言った言葉の意味を。


知りたい。私が知らない私のことも。


「柚羽?どうかしたの?…もしかして、どっか痛い?」


私が立ち尽くしていることに気がついた聡美が、心配そうな顔で戻ってきた。

先を歩いていたりとも、それに気づいて此方を振り返る。


「古織?」


どうしてなんだろう。


どうして何も憶えてないんだろう。


どうして何も教えてくれないのだろう。


忘れなければならなかったことなのかな?

もしそうなのなら、どうして紗羅さんに憎まれているのかな。


私が忘れていることを思い出してほしくないのかな?

ならどうして私に関わるのだろう。


心を巣食うのは疑問ばかりだ。
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