春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
この時の私は、油断していたのかもしれない。
そうでなければ、あんな事が起こるはずがなかったから。
「柚羽っ…!」
「(っーー!?)」
突如倒れてきた何枚もの木の板を避けようと、聡美が私の腕を引いて後退る。
その結果、私と聡美は怪我なく無事で済んだけれど。
私たちが避けたことによって、その後ろに居た人間に被害が及んでしまった。
「っ…」
「おいっ、大丈夫か!?ーークソっ、お前らが避けたから紗羅が怪我をっ…!!」
私の腕を掴む力が、強まる。
隣にいる聡美の顔が、青くなっていく。
「嘘、でしょ……」
怪我を負ってしまったのは、細くて、白くて、綺麗な女の子。
その身を案じる男は血相を変えながら、板を退けていく。
「(さと、み…?)」
立ち上がった私は、呆然としている彼女へと手を差し出したのだけれど。
聡美は唇を開いたまま、微動だにしない。
時間が止まったかのように静寂に包まれた廊下に、何者かの足音が響く。
迷うことなく、真っ直ぐに此方へと向かってくる。
ゆっくりと振り向けば、そこには美しい男が佇んでいた。