春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
恨まれたくない、憎まれたくない、という理由ではないの。

ただ知りたいだけなの。

そうして楽になりたいのかと訊かれたら、頷いてしまうけれど。


「(その人は、)」


「うん」


「(その人は、私にとってどんな人だったの?)」


私の幸せを願っていると聞いた。ならば、過去に私と面識があり、それなりに親しい間柄だったと思われる。

諏訪くんはやや考え込むと、躊躇いがちに口を開いた。


「どんな人、か。柚羽チャンにとっては大事な人だったと思うよ。神苑にとってもね」


「(大事な人…)」


諏訪くんはゆっくりと頷いた。

傍にいるりとも賛同している。

ということは、二人はやっぱり私のことを知っていたんだ。

恐らく、私がこの学校に転校してくる前から、私のことを知っていた。私が忘れてしまっていることも知っていたのだろう。


「その人は、半年前の事故以来、柚羽チャンのことをずっと捜してたんだ。柚羽チャンの家が引っ越しに伴い、転校してしまったから行方知れずになってしまったけど」


「(私を…?)」
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