春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「うん」


私にとって、大事な人だったんだ。同じく、神苑にとっても。

私は忘れてしまったけれど、その人は覚えている。私を探してくれていた。


「柚羽チャンが転校してきた日、僕と璃叶は驚いたよ。まさか転校してくるとは思わなかったからね」


「(大きな病院があるから、こっちに来たの)」


「なるほどね。通りで会えなくなったわけだ」


諏訪くんはあっけらかんと笑った。

璃叶は苦笑を漏らしながら、廊下の壁に凭れ掛かる。


「思ったんだけど、」


今まで黙って聞いていた聡美が口を開いた。


「その人は柚羽と思い合っていたのよね?」


「そうだね」


「なら、どうして迎えに来てくれないの?性格がクッソ悪い神苑の姫から嫌がらせをされてるのに」


「うーん…」


思い合っていたんだ、私。

その人のことが好きだったのかな。


思案に暮れた諏訪くんは、助けを求めるような目でりとを見た。

りとはそれに応じるように息を吐くと、組んでいた両腕を解く。


「古織が記憶喪失だからだよ」
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