春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(う、ん…?)」


その手の話に疎い私は、諏訪くんが言っていることが分からず、首を捻った。


「何が言いたいのかというと、柚羽チャンは何も気にしなくていいってこと。神苑の奴らが何かしてきたら、僕がやり返すからさ」


もちろん僕は無傷で、と付け足して笑う。
諏訪くんらしくて、思わず笑ってしまった。


「そんな風に、笑ってくれるだけでいいんだよ。それだけで、あの人は幸せだろうから」


「(あの人…)」


大切だった人。忘れてしまった人。今も私を気にかけて、幸せを願ってくれている人。

この世界のどこかで息をしている人。


いつか、あなたのことを思い出したら。

私はその時、何を思うだろう。

走ってその腕に飛び込みに行くのかな。


「さーて、帰ろうか。璃叶と永瀬チャンが待ってるよ」


「(うんっ!)」


ねぇ、神様。私は何度もあなたを恨んだ。

でも、今この瞬間はあなたに感謝をするよ。


「晏吏、古織、早く」


「ちょっと、篠宮。あたしは?」


「あー、声掛けなくても居るかなって」


「はぁ?確かに柚羽の傍に居ますけどー」


優しい人たちに出逢わせてくれて、ありがとう。
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