春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「はい、柚羽チャン」


差し出されたのは、上履きだ。
見た目とサイズからして、諏訪くんのものだろう。

彼の足元へと視線を動かせば、予想通り、諏訪くんの足は靴下しか纏っていない。


「(い、いいよ…!というか、私には大きいし…)」


そう言葉を乗せても、その場でしゃがみ、自身が履いていた上履きを私に履かせようとしている諏訪くんには届かない。


「どーぞ、僕の履いていいよ~」


ぐりぐりと半ば無理矢理に押し付けられた私は、為す術もなく大きな上履きを履かせられた。


(どうぞって…)


それじゃあ諏訪くんはどうするというのか。上履きナシで一日過ごすのは辛いはずだ。

返そうと思い、脱ごうと試みたのだが。


「素直に甘えなよ。晏吏は靴下があれば生きていけるから」


脱ごうとした私を止めたのは、無茶苦茶な理由を並べ立てているりと。


「そうそう、靴下があれば無双状態~」


意味がまるで分からなかったが、問答無用の笑顔を浮かべている二人を見て私は折れた。

口パクでお礼を伝え、素直に甘える。


「さーて、教室に行きましょ」


聡美の言葉に頷き、いつものように教室へと向かった。

その途中で、諏訪くんがいなくなっていたことには気づかずに。
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