春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「見て、青空なのに雨が降ってる。通り雨かしら?」


数時間眠気と闘った後に訪れた昼休み。その始まりで、私の席へとやって来た聡美は、外を見て不満げに言った。

導かれるように視線を窓の外へと映せば、青く澄み渡っている空から、大粒の雫が地へと降り注いでいる。


「梅雨でもないのに、なんなのかしら」


確かにそうだね、という意味を込めて苦笑を漏らせば、聡美は肩を落とした。私の前であるりとの席に座り、お弁当を広げている。

今日の放課後の予定だとか、あの教科の担当教員はどうだとか、ごく普通の話をして、私と聡美は昼休みを過ごしている。

神苑の怒りを買った、とかいう噂が流れているせいで、私たちに関わってくる人はほとんどいない。

同じクラスのふたり――りとと諏訪くんを除いて。


「ねえ、」


昼休みが終盤に差し掛かってきた頃。いつものように友人と食堂に行っていたりとが戻って来た。

聡美が座っている席の主であるりとは、次の授業にテストがあると、早く明け渡すよう催促してくる時がある。

でも、今日はこの後の授業でテストはない。
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