春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
深刻そうな顔をして戻ってきたりとを見て、聡美は驚いたような顔で口を開いた。


「どうしたの、篠宮。今日はテストないわよ?」


仮にあったとしても、りとは秀才だ。教科書を見直すだけで大丈夫なのではないだろうか。


「違う、そうじゃない」


「ならどうしたのよ」


りとは重苦しいため息を吐くと、不安げな声で呟いた。


「晏吏がいない」


諏訪くんが?

ほとんどの授業が神出鬼没な彼は、保健室でさぼっていることが多いと聞いている。今日もそこで過ごしているのではないのだろうか。

聡美も私と同じことを思っていたのか、呆れたような目を向けている。


「さぼりじゃないの?」


「朝から?」


「朝からいないの?」


りとは頷いた。

どうやら、今朝下駄箱の前で話した後から諏訪くんの姿が見えないらしい。

そのまま保健室に直行したのではないかと思い、私たちは保健室へと向かったのだが。


「あー、諏訪?今日は来てないぞ」


いざ向かった先に、諏訪くんはいなかった。

りとも聡美と同じように、いつものさぼりではないかと考えていたらしいが、一向に連絡がつかないことからおかしいと思っているそうだ。

何かに巻き込まれたのではないか、と。
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