春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
諏訪くんがどういう人か知るようになったのは、神苑とのいざこざがあった時からだ。

死神と呼ばれている彼と関わったら、制裁を下す。そう神苑の人たちが生徒たちに公言してから、諏訪くんは忌み嫌われる存在となったらしい。
理由を知る由もないまま、だ。


「…さすがに、変だな。晏吏はさぼっている時でも、連絡を入れればすぐに返してくるのに」


「意外とマメな男なのね」


そう、諏訪くんは意外な一面がたくさんあるのだ。

元暴走族の幹部というだけがあり、見た目はチャラチャラしているけれど、中身はとても優しい。

神苑の人たちからくだらない理由で暴力を振るわれている生徒を助けたり、傘を貸してくれたり、困っている人には必ず手を差し伸べている。

飄々としていて掴みどころがない人だが、根はとてもいい人だ。

私はこの目で見て、この耳で聞いて、そう思っている。


「…とりあえず、放課後になっても教室に来なかったら探す」


「そうね。その時は手伝うわ」


私も頷いた。りとがこんなにも心配するなんて、只事じゃないもの。


「…じゃあ、そういうことで」


早く教室に来ますように。そう願いながら、その後の授業を受けた。


そして、放課後になっても。


「…なんで、」


諏訪くんは、教室に現れなかった。
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