春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「見つけたら、連絡して。何かに巻き込まれている最中だとしても、絶対に一人で行かないで」


りとは私たちに念を押すと、廊下の外へと駆けていった。私と聡美もロッカーに荷物を放り込み、教室の外へと身を投じた。

嫌な予感がするのだ。
深く考え過ぎだと言い聞かせても、胸の奥がザワザワする。


(諏訪くん…)


ねぇ、どこにいるの?

朝、昇降口で会ってから、どこに行ってしまったの?


「柚羽、私は北校舎に行くわ。そっちお願いしてもいい?」


「(うん)」


別校舎へ行くという聡美と渡り廊下で別れた私は、あまり使われていない教室が並ぶ、南校舎へと向かった。

いつも部活動をしている生徒たちの声で賑わっている校舎だが、教室は静かだった。
テストが近いからお休みなのかもしれない。


最上階から下へと順に空いている教室に足を踏み入れ、人が居そうな場所は片っ端から見て回った。けれど、諏訪くんの姿は見当たらなかった。
< 130 / 381 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop