春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「おい、コイツ、姫に復讐するために転校してきたとか言う奴じゃ…」


「え?姫に酷いことをして、夏樹さんを怒らせた例の女?」


どうやら私は神苑の人たちにそう思われていたらしい。だが、今はそれを撤回している場合ではない。

聞かなくちゃ。諏訪くんのことを。


「(教えてください!諏訪くんは…諏訪くんは、どこにいるの!?)」


「え、ええ?」


こんなに必死に唇を動かしているのに、伝わらない。言葉が届かない。声が出てくれない。


「なんなの、コイツ」


「さぁ?声が出ないんじゃないの?」


男のワイシャツを掴み、必死に伝えようとしている私を見て、二人は面白おかしそうに笑った。


こんな時、私はどうしていたっけ?

声にならない言葉を伝える時、私は何を。


「おい、オマエ、俺たちは暇じゃないんだ。声が出ないごっこはしてやらねぇよ」


ごっこなんかじゃない。

出てくれないんだよ。

こんな時なのに、相変わらず出てくれないの。


「(お願い、しますっ…教えてください!)」


「あ?」


彼らはそろそろ鬱陶しいと思ったのか、乱暴に私の肩を掴み、後方に突き飛ばした。
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