春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…電話、してよ」


俯いた私へと、人影が伸びる。

悲しくて堪らない私の元へと、真っ直ぐに向かってくる。


「なんだ、オマエ…」


音楽を奏でるような、流麗な足運び。

近づくほどに、世界が明るくなっていくような気がした。


「声にならなくても、呼んでよ」


声に、音にならないのに、どうやって呼ぶの?

無理難題だよ、りと。


「おい、無視すんじゃねえよ」


「…煩いな」


私の目の前へと歩み寄ってきたりとは、地を這うような声でそう言い放つ。

それに怖気付いたのか、男たちは顔を見合わせると、そそくさと去っていく。


「…古織、」


優しさに満ちている声を聞いた瞬間、安堵の涙がこぼれ落ちてしまった。

怖かったわけじゃない。

恐ろしかったわけじゃない。

何も出来ない自分が嫌で、嫌で、堪らないの。


「(り、と)」


りとは片膝をつくと、躊躇いがちに手を伸ばした。そして、私の目尻を指先でそっと拭う。


「…うん、なに?」
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