春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

憂きに堪へぬは

りとが向かった場所は、旧体育館倉庫だった。
そこは前に私が連れていかれた場所で、諏訪くんが助けに来てくれた場所でもある。

その錆びれた扉の前で、諏訪くんは力なくコンクリートの壁に凭れかかっていた。


「(す、わ、くん……)」


りとより少し遅れて到着した私は、その光景を見て唖然とした。

殴られり蹴られたりした怪我だけではない。顔だけでなく手足も血だらけで、青く腫れ上がっているところもある。

転がるように駆け寄ったりとは、諏訪くんの片手を掴んで必死に声を掛けていた。


「晏吏!晏吏!? 返事をしろよ!!!」


耳元で大きな声を放ち、握った手を強く掴み、肩も揺すっているというのに。


「晏吏っ…!?」


諏訪くんはピクリともしなかった。

りとは浅い呼吸を繰り返すと、携帯電話を片手にその場から離れた。

救急車を呼ぶのかと思えば、誰かに連絡をしているようで。

通話を終えたりとは、諏訪くんの怪我の具合を確認するためか、再び歩み寄ってくる。
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