春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
諏訪くんは片手を地面につきながら、ゆっくりと体を起こした。そうして空いている方の手をりとに伸ばし、頭の上にポンと手を置いている。


「もー、璃叶は涙もろいんだから」


「はぁ?んなわけないだろ」


諏訪くんに言われたことが気に食わないのか、りとは怒っていた。

頭上に置かれた手を振り払い、諏訪くんの頬を両手で包み込むと、容赦なく引っ張っている。


「いひゃい、いひゃいよりとぅ…」


りとは涙目で訴える諏訪くんをキッと睨むと、立ち上がって背を向けてしまう。

その横顔はいつものりとからは想像もつかないものだった。
肩で浅い呼吸を繰り返しながら、形のいい唇をキュッと引き結び、目に薄っすらと涙を浮かべている。

瞬きをしたら、こぼれ落ちてしまいそうだ。


「………馬鹿晏吏」


そう呟くと、私たちの元へ走って来る聡美の元へと足先を向けた。

これから諏訪くんを手当てするために、どこかへ行くらしい。そのために車を呼んだとか、校門の前がどうとか言っている。
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