春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
次はない、と言ったりとの頬を、透明の雫が伝い落ちた。
背を向けてしまったから、諏訪くんからは見えていない。恐らく、聡美からも。
けれど、私は見てしまった。この目で見てしまったの。
この世のどんなものよりも綺麗な、人の想いを。
りとの涙を。
「(りと…)」
諏訪くんが優しい人であったように、あなたは真っすぐな人だった。
ぶっきらぼうで、真面目で、口を開けば「クソ」か「テスト」ばかり出ていたのに。
りとは、綺麗な人だ。心が綺麗な人。
あの時、りとはかの人から命令されているから、私を気にかけているなんて思ってしまって、ごめんね。
そんな邪なことを考えてしまった私は最低だ。
ひたすらに綺麗なあなたが、そんなことをするわけがないのにね。
もう一度その名を唇に乗せようとしたら、何者かの足音が聞こえた。
気のせいではない。此方に向かって来ている。
「―――璃叶」
その人に名前を呼ばれたりとは、弾かれたように振り向いた。
秋風に吹かれている私たちの元へとやって来たのは、ひとりの男の人。
背を向けてしまったから、諏訪くんからは見えていない。恐らく、聡美からも。
けれど、私は見てしまった。この目で見てしまったの。
この世のどんなものよりも綺麗な、人の想いを。
りとの涙を。
「(りと…)」
諏訪くんが優しい人であったように、あなたは真っすぐな人だった。
ぶっきらぼうで、真面目で、口を開けば「クソ」か「テスト」ばかり出ていたのに。
りとは、綺麗な人だ。心が綺麗な人。
あの時、りとはかの人から命令されているから、私を気にかけているなんて思ってしまって、ごめんね。
そんな邪なことを考えてしまった私は最低だ。
ひたすらに綺麗なあなたが、そんなことをするわけがないのにね。
もう一度その名を唇に乗せようとしたら、何者かの足音が聞こえた。
気のせいではない。此方に向かって来ている。
「―――璃叶」
その人に名前を呼ばれたりとは、弾かれたように振り向いた。
秋風に吹かれている私たちの元へとやって来たのは、ひとりの男の人。