春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
私も聡美も拍子抜けをした。だって、てっきり寝たきりだと思っていたんだもの。体中痣だらけだったというのに、翌日にはもう起き上がって笑っているなんて、誰も予想できまい。


「ちょっと、なに吞気にしてんのよ!!あんた寝てなくて大丈夫なわけ!?」


お茶を啜りながらテレビを見ている諏訪くんに痺れを切らしたのか、聡美が怒りだした。
諏訪くんを心配してのことだろう。


「大丈夫大丈夫~。璃叶が一晩中暖めてくれたからぁ」


「はぁ?看病はしたけど、暖めた覚えはないよ」


ケラケラと笑っているけれど、今サラッと凄いことを言っていたような…。


「えー。心を温めてくれたじゃん?璃叶ちんは何を勘違いしてるのかなー?」


諏訪くんのその言葉で、りとの周りの空気の温度が一瞬で下がった。

気のせいではない。りとが凄まじい形相で諏訪くんを睨んでいる。


「………晏吏」


地を這うような声に、関係のない私たちも身震いをした。

諏訪くんは「お手洗いに行ってくる」と言い、脱兎のごとくその場を去った。
十中八九、りとから逃げるための言い訳だと思うのだけれど。
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