春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
りとが優しい理由が分かる気がした。だって、こんなに優しい人に育てられたんだもの。

血の繋がりがあろうとなかろうと関係ないということを、この目で見て知ることができた。

瞬きをした瞬間、目の奥で堪えていたものが一つ、はたりとこぼれ落ちる。

私はそれを乱暴に拭い、ニッと口角を上げた。


【ありがとうございます】


伝えたい言葉は、ただそれだけ。画面を見せた後に笑って見せれば、紫さんも笑ってくれた。


「いいえ」


温かい人たちだ。この人たちと一緒に居るだけで、切ないくらいに心が温かくなる。

これまでに友達と呼べる存在はいたけれど、彼らはそれとは違う気がした。
聡美も、諏訪くんも、りとも、大切な友達だ。でも、今まで出逢ってきた人たちとは違う。


「古織、お菓子食べないの?晏吏に食われるよ?」


「(食べる!)」


声が出なくたって、この声を聞いてくれる人がいる。手を引いてくれる人がいる。笑ってくれる人がいる。


「チョコは僕がいただき~」


私たちは気づいていなかった。
大きな闇が、すぐそばまで迫ってきていることに。
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