春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
外はまだ18時過ぎだというのに、とても寒かった。あと数日で12月を迎えるのだから、寒くて当たり前なのだけれど。


(わあ…寒い…)


白い吐息が空気に溶けて消えた。冷気を含んだ風に吹かれ、反射的に身震いしてしまう。

赤や青、紫や緑色の光を放っている街中を歩き出した私は、そっと後ろを振り返った。

うん、大丈夫。りとは追いかけてきていない。
早く家に帰ろう。これ以上彼に迷惑をかけられない。

ほっと胸を撫で下ろした私は、再び前を向いて歩き出したのだが。


(……え…)


思わず足を止めてしまう光景が、目の前に広がっていた。


「―――で…――を…」


胸の鼓動が、いつにも増して脈打っている。そこに手を当てれば感じられるほどに。


(な、んで……)


見間違えかと思った。でも、何度瞬きをしても、この目は同じ世界を映している。

私は大きく目を見開き、ただその光景を凝視していた。

十数メートル先に立っている、見慣れた女の姿を。
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