春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
関わっちゃ駄目だって。

近づいては駄目だって。

この男は危険。族から追放された死神。

そう、言われたのに―――


「―――晏吏」


あの男が現れた瞬間、私は息苦しさから解放された。

物のように放られた私の元へと、血相を変えた聡美が駆け寄ってくる。


「柚羽…!!」


「(だい、じょうぶ…っ)」


私は肩で息をしながら、対峙する二人の男へと視線を投げた。

ふらりと現れた諏訪晏吏は口元を緩々と綻ばせ、私を掴んだ男は彼を無言で見つめている。


全てを凍てつかせそうな、氷の双眸。

それを一身に受けているというのに、諏訪という男は臆するどころか、躱すような飄々とした目で見つめ返していて。


「―――もう二度と俺に顔を見せるな。そう言ったはずだが」


張り詰めた空気を破ったのは、男の声。

地を這うような低い声でそう言い放つと、床に座り込んでいる怪我をした少女へと手を伸ばす。


「…紗羅(さら)、大丈夫か?」
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