春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
ああ、やはり。

あなたで間違いない。

その声を聞いた瞬間、疑いが確信へと変わった。

涙で滲んだ視界に映ったのは、漆黒のコートを身に纏い、金色の髪を靡かせている男の人。

あの雨の日の夜、私の家の近くにある空き地で傷だらけで倒れていた男の人だ。

次に会った時、名前を教えてくれると言った、どこの誰なのかもわからない人。


「な、なんでお前がこんなところに…!?」


男性はその人を見た途端、みるみる顔を青くさせた。


「…俺がいつ、どこに居ようと、お前に関係ないだろう」


あの夜の男の人は美しく不敵に微笑むと、私に手を差し出す。


「――失せろ」


そう言い、眼差しだけで男性を黙らせると、私の手を強く引いて立ち上がらせた。

綺麗なグリーンアイが、躊躇いがちに私を映す。


「…ユズハ、だったな」


まさか覚えていてくれたとは思わなかった。

コクリと頷いた私は、唇を噛みしめながら俯いた。

そうしていないと、涙がこぼれてしまいそうだったから。
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