春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

恋に朽ちなむ

闇の中を、ひとり彷徨い歩く。

視界が朧げで、街灯の光が陽炎のように揺れて見えた。

身一つで行くあてもなくフラフラとしている私へと、いくつもの好奇な視線が突き刺さる。

声を掛けようか、誘ってみようか、そんな声まで聞こえてくる。

いつもの私なら、怖くて恐ろしくてその場から逃げ出すのだろうけれど。

今の私には、走る気力すらない。


(…私は、)


自分が何なのか分からないまま、恨まれて、憎まれて。

気にするなと励ましてくれていた友達に甘えて、笑っていた。

本当は紗羅さんやお姉ちゃん、私が不幸にしてしまった人がいるのに、目を背けていたんだ。


私なんて、いなくなっちゃえばいいんだ。

そうすれば、お姉ちゃんは幸せになれる。紗羅さんも幸せになれる。私が忘れている人たちも、神苑の人たちも、みんな。

何度も助けてくれた諏訪くんも、聡美も、声を聞いてくれた璃叶も、面倒ごとが一つ減ったと言って、笑うかもしれない。
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