春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
パクパクと口を動かしている私を見て、聡美は首を傾げている。

それはそうだ。声が出ないくせに、次から次へと質問を飛ばしているのだから。

私はスマートフォンを取り出そうと、スカートのポケットの中を弄った。


「(あ、れ……)」


何度も、何度も確かめた。けれど、そこにあるはずの感触がない。

私の声を届けてくれる、唯一のものが。


「(う、そ…)」


「柚羽?どうしたの?」


嘘、嘘だ。あれがないと、私は。


「(な、いっ…!)」


着ていたカーデガンを脱いで上下に振っても、ポケットの中を探しても、辺りを見回しても、どこにもなかった。


「柚羽、どうしたの?何かを探してる?」


「(ない、の…スマートフォンが、ないの)」


「何がないの?」


ほら、届かない。何にもなれない言葉は、永遠に消される。


「(どこ…っ?)」


暴走族なんて、神苑なんて、今はどうだっていい。

姫よりも、総長よりも、こっちの方が大事だ。

あれがないと、私は―――
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