春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
-篠宮 璃叶 Side story-




『…聞くまでもない、か。愚問だったね。こうやって押し倒されたらどうしようもない、か弱い女だし、声だって…』


今しがた、少女へと投げた言葉が胸の内で浮遊している。息をすればするほど、存在を主張するように大きくなっていく。

言ってしまったのだから仕方がない。そう自分に言い聞かせ、今は忘れようと思ったのだけれど。

そう思えば思うほど、頭の中から離れない。縫いついたように、離れてくれないのだ。


(……何、してるの。俺は)


俺は、アイツに何をしようとしていた?何を言いかけた?

ずるずるとしゃがみ込んだ俺は、力なく項垂れた。

ドアの向こうから、すすり泣く声が聞こえる。

当たり前だ。強く言ってしまったのだから。怒り任せに酷いことをしたのだから。


怒鳴ったりしてごめん。押し倒してごめん。酷いことを言ってごめん。

言葉が荒波のように押し寄せてくるのに、後悔はしていなかった。
それは伝えたいことを伝えたからだと思う。

ああやって押し倒されたら抵抗するどころか、助けすら呼べないのに、馬鹿なことをしようとしていたから。

それでつい、カッとなってしまったんだ。
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