春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
何度目かの重苦しいため息を吐いた。そうしても、胸は軽くなってくれなかった。それどころか、身体が火照ったように熱い。

テラスで冷たい夜風に吹かれても、顔に水を掛けても、中々冷めてくれなかった。

心臓がギュッと掴まれたように痛い。何故なんだろう、と思えば思うほど痛んだ。

きっと、アイツのせいだ。アイツが「消えてしまいたい」とか言うから。そう言ったくせに、押し倒した瞬間泣きそうな顔をしたから。

自分を大切にしてくれないから。だから、俺は。


「―――りと、どうしたのですか、寒いのにこんな場所に…」


その声で振り向けば、背後には紫さんが居た。困ったように微笑みながら、優しい眼差しで俺を見つめている。

まだ閉店時間じゃないのにどうしてここに居るんだろう。

もう閉めるつもりなのかな。それとも店内には誰もいないとか?


「紫さん…」
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