春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「璃叶。大切に想うがゆえに、傷つけてしまうことはあります。だって、人間なんですから」
「……うん」
人間だから、か。
じゃあ、そうでない別の生き物になれば、誰も傷つけずに済むのかな。
古織を泣かせることも、なかった…?
「…璃叶?」
それは、嫌だ。人として生まれて来なければ、出逢うことはなかったんだ。
言葉を交わすことも、この手を差し出すことも、きっとなかった。
声にならない声を聞くこともなかった。
「………」
胸が、痛い。
どうしてなのかは分からない。
分かりたくもない。
だけど、顔が見たくて堪らなかった。
アイツが居るべき場所はここじゃないのに、「ここに居ていいよ」って言いたかった。
だから、泣かないでよ。って。
それよりも先に、謝って…。
謝って、俺は…。
「璃叶。古織さんに客間に泊まるよう伝えましたよ。お風呂に入るよう、着替えも渡しました。だから、大丈夫。泣かないで」
「…泣いてないし」
最後の一滴が頬を滑り落ちた。
そのあとに、空を見上げてみた。
ずっとずっと昔の光が、星々が輝いている。
己の存在を主張するように、ずっと。