春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
夏来にけらし
季節は初夏。
高校二年生だと言うのに、真新しい制服に身を包んだ理由はただ一つ。
「―――今日からこのクラスに新しい仲間が増える。入れ」
担任の言葉を合図に、見知らぬ世界へと身を投じれば、30人以上の人間から品定めをするかのような視線を向けられる。
白いチョークを持った担任が、黒板に私の名前を書いていく。
その音をぼんやりと聞きながら、教室の後方にある窓の外の景色を見つめた。
私が生まれた街よりも遥かに栄えているのは、ここが都心だから。
かと言って、無数のビルや朝の満員電車には慣れっこだ。
何故なら、田舎から越してきたわけではないから。
「―――転校生の、古織 柚羽(ふるおりゆずは)だ」
教卓の前に立った私は、深いお辞儀をした。
声にならない言葉を、唇に乗せながら。