春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「―――ねぇ、」


焦燥に駆られる私へと、知らない声が降る。

誰だろう?

このクラスで私に話しかける人は聡美以外に居ないから、さっきの人たちに関係のある人だろうか。


「聞こえてる?古織さん」


どうして避けたんだ、とか。

怪我をしたのはお前のせいだ、とか。

とにかく、私を責めに来たのだろう。いや、そうに違いない。

そう一人で理解した途端に、堪らなく怖くなった。

一気に体温が下がったような感覚に襲われ、両腕で身体を抱きしめながら、衝動的に立ち上がった。


その瞬間、私の後頭部が声の主にぶつかり、一瞬で視界がぐらりと傾く。


「(っ…!)」


「っちょ、」


反射的に目を瞑ったのもつかの間、倒れるはずの身体はしっかりと抱き止められ、近くの椅子に下ろされた。

パチパチと瞬きを繰り返せば、私に声を掛けたらしき人が、私の顔を覗き込んでいる。


「…危なっかしいな」


そう言って、困ったように小さく微笑んだのは、綺麗な男の子だった。
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