春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
考えてみれば、私はりとに酷いことを言ってしまっていた。助けてくれたのに、お礼の一つも言わないで、「どうして助けたの?」なんて最低な発言をして。
りとは心配してくれただけなのにね。何をしているんだろう、私。
「コーヒーと紅茶、どちらがよろしいですか?」
身支度をしてリビングへと戻った私を迎えたのは、お皿にスクランブルエッグやベーコンを乗せている紫さんと仏頂面のりとだった。
昨日あんな事があったせいか、いざ顔を合わした今、何を話したらいいのか分からない。でも、これだけは言っておきたかった私は、その言葉を薄っすらと唇に乗せた。
それを見たりとは驚いたように目を見開くと、目を逸らしてしまった。
そうして、消え入りそうな声で、「おはよう」と返してきた。
堪らなく嬉しくなった私は、何度もコクコクと頷いた。その様子を見ていた紫さんも嬉しそうに笑っていた。