春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

「（お母さん…）」


紫さんの挨拶を遮って私の元へと駆け寄ってきた母は、必死の形相で目にうっすらと涙を浮かべていた。両手で私の頬を包み込むと、はらりと一滴の涙をこぼす。

その瞬間、底知れぬ安堵感に満たされた。
ああ、お母さんだ。心配させてしまったんだなって。
躊躇うことなく、その腕の中に飛び込もうとしたのだけれど。


「どこで何をしていたのよっ…！？」


手を、腕を、振り払われた。母の温度に包まれるはずだった体は、変わらず冷たい空気に体温を奪われている。

ハッと目を見開けば、母の顔が怒りで歪んでいた。


「…心配してくれた瑞茄に暴力を振るったんですって？あの子、痣だらけだったわよ」


なに、それ。
お姉ちゃんが心配？ 私を？
殴ったって、なに？
指一本たりとも触れていないのに。


「真夜中に男の人とホテルに行こうとしていたんですって？証拠の写真を見せられた時、悲しくて何も言えなかったわ」


ねぇ、お母さん。さっきから何の話をしているの？