春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「あの、古織は」


「部外者は黙っていて頂戴!!」


間に割って入ろうとしたりとを母はキッと睨みながら怒鳴った。
私を背に庇おうとしたりとを押し退けると、私の両肩を掴んで詰め寄って来る。


「ねえ、柚羽。あなたは話せないからって、バレていないとでも思っていたの?」


何がなの。ねえ、お母さん。意味が分からないよ。

お姉ちゃんに何を言われたの?


「そんな子に育てた覚えはないのに…どうして?何か不満があるの?」


その様子なら、やっぱりお姉ちゃんに何か言われたんだ。ありもしないことを吹き込まれたんだ。そして、それを信じてしまったんだ。


「(おかあさん…)」


お母さんが言う“そんな子”がどんな子なのかは知らないけれど、私はずっと敷かれたレールの上を歩いてきたんだよ。悪いことなんてしてないよ。

母は片手でこめかみを押さえながら、重苦しいため息をこぼした。


「あの事故からもう直ぐ一年…。瑞茄の言う通り、あの事故で声を喪ってから、柚羽は変わってしまったのね」
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