春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(お母、さん…?)」


「いや、あの事故じゃなくて、“あの男の子”と出会った時からかもしれないわね。あの男の子のせいで…あの男の子が柚羽を…」


あの事故って、私が通り魔に遭遇してしまった日のこと?
あの男の子って誰?
諏訪くんやりとが言っていた、あの人とは違う人?それとも同一人物?


「ねえ、柚羽。今ならまだ間に合うわ。瑞茄に“暴力を振ってしまってごめんなさい”と謝って、やり直しましょうよ」


母が言っていることがまるで分からない。
私は姉に何もしていないのに、どうして謝らなければいけないのか。


「昔のように戻りましょう。ちゃんと謝れば、瑞茄はこれまでのことも許してくれるはずよ。だっていい子だもの」


何を言っているの。


「暴力だけでなく、物を盗られたこともあると言っていたわね。私ったら、瑞茄が言ってくれるまで気づかなくって…でももう大丈夫。柚羽に好き勝手はさせないわ」


何を言っているの。


「(お母さんっ!私は何もしてなっ…)」
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