春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「――…子供を育てる大変さを知らないくせに、と仰いましたが、生憎知っております」


「…あの男の子の父親だとでも言うつもり?」


再び外へと身を投じれば、未だに紫さんと母は言い争っていた。

今はあの場に戻るべきでないと判断したのか、りとは玄関の前で立ち止まったまま、ジッと二人を見つめながら耳を傾けている。


「ええ、そうです」


挑発的な態度でいる母に対し、紫さんは穏やかな笑みを浮かべたまま答えている。


「そんなわけがないでしょう。いくらなんでも若すぎるわ」


話の内容は、りとのことなのかな。
お母さんは紫さんがりとの育ての親であることを知らないから。


「当たり前です。僕とは一切血のつながりがない、他人の子供なのですから」


「何を言うのかと思えば、他人の子ですって?一から育てる大変さを知りもしないで…」


母は鼻で嘲笑った。

私は反射的に隣に居るりとの顔を見上げた。
紫さんに対する母の言葉に腹を立てているんじゃないかと思ったから。


「(……りと?)」
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