春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(き、れい…)」


「…は?」


気がつけば、見て感じたことを唇に乗せていた。

伝わるはずのない言葉を、精一杯の口パクで告げる。


「(瞳が、きれい)」


彼の瞳は紺色だった。カラーコンタクトなのか、生まれ持ったものなのかは分からないけれど、柔い光を放つそれはとても綺麗で。

声を持たない私を見て、彼はキョトンとした顔をしていたけれど、言葉が通じたのか微かに口元を綻ばせた。


「…そう」


つられるように微笑めば、彼は何かを思い出したような声を上げ、ポケットから何かを取り出した。
そして、私に差し出す。


「(え……、どうして、それを?)」


差し出されたものは、必死に探していたスマートフォン。

彼は「落ちてた」と呟くと、私の右手に握らせる。

この手に戻ってきた瞬間、果てしない安堵感に包まれた。

恐らく、さっきの場所で落としたのを見て、拾ってくれたのだろう。


「(あの、ありがとうございます…!)」
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