春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
ふわりと風が吹いた。その冷たい温度を肌で感じた瞬間に、今年があと一ヶ月で終わることを思い出した。
早いなぁ。私が声を喪ってから、もう直ぐ一年になるのか。今の学校に転校してきてからもう半年。
時が経つのは本当に早い。
りとが何も言わなくなってしまったから、一体どうしたのかと隣を見上げた。
りとは星空を眺めているようだった。
ああ、だから今の言葉は聞こえていなかったのか。
私はりとの服の裾をちょっと引っ張った。すると我に返ったように此方を振り向いて、「ごめん、聞いていなかった」と笑う。
「(いつか、どこかで会えるかな?って言ったの)」
そう尋ねた瞬間、りとの顔から表情が消えた。夜だし暗いから気のせいだと思ったのだけれど、確かに視線を逸らされている。
「(りと?)」
紺色の瞳が月明かりに煌めいた。
「…うん、いつか」
りとはふわりと優しく笑った。
私は笑い返して、冷めつつあるココアを喉に流し込んだ。