春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「―――ユズハ」


「(…っ!)」


彼だってそうだ。顔と名前を知っているだけで、それ以外は全くと言っていいほどに知らない人。


(どうして…)


もう会うことはないと思っていた人が、目の前にいる。手を伸ばせば触れることが出来る距離に。
向かい側から現れた彼は、その目に私の姿を映すと満足そうに笑った。


「ここに来れば、ユズハに会えるような気がした」


透き通るような色の髪がふわりと揺れた。その瞬間、鮮やかなグリーンアイが波打つように光を放った。


「(ヘキルさん…)」


どうしてここにいるのか、という質問は野暮なことだろうか。
あなたは言っていたじゃないか。私とは住む世界が違うって。もう会えないようなことも匂わせて。


「どうしてここに居るのか。そう言いたそうな顔だな」


どんな顔なのって言いたかったけれど、それよりも先に口がパクパクと動いていた。

どうしよう、何を言ったらいいのか分からない。だって、突然すぎるんだもの。

ひとりで驚いたり慌てたりしている私を見て、彼は悪戯が成功した子供のように笑った。
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