春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…聞いてみたくなっただけだ。気を悪くさせてしまっていたら、すまない」


心底申し訳なさそうに言う彼を見て、私は即座に首を横に振った。


「(いいえ。そのお気持ちだけで嬉しいです)」


「…そうか」


このまま人が往来している道の真ん中で話すのは邪魔になると気がついたのか、ヘキルさんは「場所を変えよう」と歩き出した。その後をついて行けば、目と鼻の先に駅の改札口が見える広場に出た。


「…ユズハ。この前会った時に言っていた友達とやらは、あの繁華街に住んでいるのか?」


何を話すのかと思えば、この前のことだ。ヘキルさんは私にあの繁華街に近づいて欲しくないのかな。夜は危険だけれど、昼間は普通の商店街と変わらないのに。


「(はい、そうですが…)」


疑問に思いながらも頷けば、ヘキルさんは渋い顔をしていた。


「そうか…。じゃあ、お前の友達は白い店を営んでいる男の子供だな?」


白い店? それは『ANIMUS』のことだろうか。それ以外に思いつかなかった私は、曖昧に頷いた。すると、瞬く間にヘキルさんの顔色が変わった。
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