春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…ユズハ、よく聞いてくれ。実はあの店の髪が長い店主は…」


「――古織っ!!!」


ヘキルさんが改まって口を開くと同時に、背後から息を切らしているりとが駆け寄ってきた。私の隣に立つヘキルさんを見て、大きく目を見開いている。


「なんで、アンタがここにいるんだよ…?なんで、古織と!?」


りとは顔を歪め、ヘキルさんに詰め寄った。どこか焦っているような姿はりとらしくない。


「お前に言う必要があるか?」


「あるに決まってるだろ!!なんでアンタと古織が一緒にいるんだよ!?父親に命令されたの!?」


早口で捲し立てるりととは反対に、ヘキルさんは冷静だった。肩眉を上げただけで、全く動じていない様子だ。


「…違う」


「違わないだろ!アンタが古織に近づく理由なんてそれしかない!」


りとはどうしてそんなに怒っているのだろう。

ヘキルさんは姉と関係を持っている男性の息子さんだけれど、話してみればとても穏やかで思いやりがある人だ。

近づくな、なんて。ヘキルさんが何者なのか知っている口ぶりだし。
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