春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…話を聞け、」


「聞かないよ!!もう古織はアンタらの世界とは何の関係もないんだから、関わらないで!!――帰るよ古織っ…」


りとは一方的に話を終わらせると、私の手を掴んで駆けだした。


「(り、りと…!?)」


ねぇ、りと。どうして怒っているの?ヘキルさんを知っているの?
聞きたいことがたくさんあるのに。向かい風に逆らいながらひた走る背中には、何の言葉も届かない。

駅前の大通りを抜け、人通りが少ない住宅街へと出る。

『ANIMUS』への近道である、夜になっても比較的明るい裏通り。その道の途中でりとは足を止めると、ゆっくりと振り向いた。


「アイツとはどういう関係?」


らしくもないよ、りと。そんな風に感情を表に出すなんて。
怒って声を荒げることはよくあるけれど、いつもはポーカーフェイスじゃないか。


「(関係も何も、二か月前に家の近くで倒れていたところを手当てして、おにぎりをあげただけだよ)」


「はぁ?」


「(どうして?いけないの?)」
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