春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
そう尋ねれば、りとは柳眉を額の中央へ寄せた。


「当たり前。アイツは崇瀬組の若頭(わかがしら)」


崇瀬(たかせ)組。どこかで聞いたことがあるような名前だけれど、それが何なのかは分からなかった。

どこかの会社なのかな。それとも、何かのチーム名かな。

若頭って何だろう? チームのエースのようなもの?

何だろう、と考え出した私を見つめていたりとは、呆れたような溜息を吐く。


「ヤクザだよ。指定暴力団、崇瀬組」


指定暴力団。テレビで聞いたことがあるワードだ。その名の通り、暴力を振るって何かをする団体なのかな。

無知すぎて恥ずかしくなったが、りとは気にしていないようだった。それどころか、気にしてほしくないような感じだ。


「…まぁ、あいつにとってのアンタはただの恩人か。でも、もう会わないで」


その真剣な眼差しと声音から、心の底から心配されていることが分かる。

近づくな、関わるな、忘れろ、と痛いほどに伝わってくる。
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