春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
ヘキルさんがその指定暴力団の人で、若頭とかいう役職のようなものに就いているということは理解した。でも、だからと言って悪い人には見えないんだけどな。


「(ヘキルさんは悪い人なんかじゃないよ)」


だって、わざわざお礼を言いに会いに来てくれたんだもの。怖い思いをした時、助けてくれたもの。
そう思っている私だけれど、りとはそうは思えないようで。


「なんでそう言い切れるんだよ。あいつはヤクザだよ?何してるかわかんない、裏社会で生きてる奴だ」


「(だから何なの?)」


「はぁ?」


心配してくれているのは分かるけれど、ヤクザだからという理由でヘキルさんを悪い人だと決めつけてしまうのは嫌だ。


「(ヤクザだから、関わっちゃいけないの?)」


そう言った瞬間、しまった、と思った。
りとの綺麗な顔が、みるみるうちに歪んでいく。悲しそうに、辛そうに。


「…関わりたいの?」


りとはヤクザが嫌いなんだ。私だって好きではない。けれど、ヤクザだからという理由で、ヘキルさんと関わってはいけないと言ったりとに腹が立っただけ。
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