春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
日暮れを告げる烏が鳴いている。誰もいない公園のベンチの上で、ひとり涙を流している私を馬鹿にしているように聞こえて、余計に泣けてきた。

りとの馬鹿。ヤクザだから何なのよ。そうやって決めつけて、距離を取って離れるなんて悲しいよ。同じ人間なんだから、話せばきっと分かり合えるはず。

そう思う私が馬鹿なのかな。


「(っ……)」


ヤクザだから、何だというの。それだけの理由で背を向けるなんてこと、私はしたくない。

助けてくれたよ。温かい言葉をくれたよ。綺麗に笑う人だよ。優しい人なんだよ。
だから、あんな風に言ってほしくなかった。

頬を伝って流れ落ちていく涙に濡らされた膝が、冷たい。それに指先で触れた瞬間、切なさが増した。

どうして分かってもらえないんだろうって。ただただ悲しくて、胸が押しつぶされたように苦しくて仕方がなかった。

涙で滲み、朧げになった視界の端で枯葉が舞い踊る。ゆらゆらと落ちていくそれを目で追っていたら、止まったはずの涙が再び溢れ出してきた。
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