春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

われても末に

私を、捜していた?

あなたが、私を?


「…はじめましてなんかじゃないよ」


私の鼓動の音が聞こえる。いつになく強く、激しく脈打っている。

彼の琥珀色の瞳にとらわれた瞬間からそうだった。

彼の全てが、私を掴んで離さない。現実では初対面のはずなのに、以前にどこかで会ったことがある気がしてならなかった。


「君にとっては、はじめましてなのだろうけれど…」


飛んでいく風船が私ならば、彼は地を蹴って手を伸ばし、細い糸を掴んだ人。

もう二度と飛んでいかないで、と言わんばかりに糸を手繰り寄せて、括りつけるかどうか迷っている。そんな、表情をしているのだ。


「俺にとっては……っ、」


消えてしまいそうな声とともに、ふたつ目の雫が降った。

それは、紛れもなく彼の涙だった。

白い頬を、音もなくつうっと滑り落ちていく。

無色透明の綺麗な雫が、彼の瞳からいくつもいくつも溢れては、はらはらとこぼれ落ちていく。

今度こそ拭ってあげなきゃ、と思った。彼の全てが初めてのことなのに、どうしてか、二度目か三度目のことのように思えてしまうの。
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