春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

『その人は、半年前の事故以来、柚羽チャンのことをずっと捜してたんだ。柚羽チャンの家が引っ越しに伴い、転校してしまったから行方知れずになってしまったけど』


諏訪くんが言っていた、“その人”。

そして、


『駄目だよ、柚羽。呼ばないで。思い出さないで。忘れていて』


夢の中でそう言っていたあなたは、きっと、彼らが言っていた人と同一人物だ。

私と事故に遭ってから、私を捜してくれていて…居場所を知った後は、りとに私を見守るようお願いしていた。

事故に遭う前のことは分からない。以前諏訪くんは私にとって大事な人だったと言っていたから、その言葉の通りに親密な間柄だったのだと思う。

そうでなければ…感情をさらけ出すことなどしないだろうから。


どうして逢いに来てくれたのかは分からないけれど、その温度に触れた瞬間、理由なんてどうでもよくなってしまった。

逢いたかったのは私も同じだ。夢の中でしか会えなかったし、訊きたいこともたくさんある。

でも、今は。

今は、こうして頭を撫でてあげていたい。傍に居てあげたいと思ってしまう。
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