春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
さわさわと、木々が揺れる音が聞こえる。

その音がふたりぼっちの世界に響いた瞬間、草花が萎れていく時のように力なく項垂れていた彼はゆっくりと顔を上げた。

雪のように白い肌には涙の痕があったけれど、琥珀色の瞳を縁取る睫毛は濡れてはいない。

よかった、と思った。哀しみの雫を降らせる原因を作ったのは、他の誰でもない私だから、こんなことを言う資格はないけれど。
泣き止んでくれて、よかった。


「……何から、話そうか」


水滴のように、ぽたりと声が落ちる。
男の人にしては少し高めの声。聞いていて心地がいい柔らかな声に、心がほぐされていく。


「…たくさんあったはずなんだけどな」


彼はふふっと笑った。
雨上がりの花のような笑顔につられて、私の頬も緩んでいく。

彼は私をベンチの上に座らせると、名残惜しそうに私の腕から手を離した。そして自身の首に巻いていた白いマフラーを取ると、優しい手つきで私の首に巻いていった。


「寒くない?柚羽」


そうして、幸せそうに微笑んだ。
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